暖かいもの 強いもの
「蛇神くん?
どうしたんだい、ぼんやりして…。」
親友の声に我に返ったのは、十二支高校3年、蛇神尊。
今は昼休みで、同級生である牛尾、鹿目、獅子川、三象たちと3−Aの教室で昼食を取っていた。
ふと窓を見た蛇神が、そのままぼんやりと外の様子を眺めているのに、牛尾が声をかけたのだ。
「ああ、すまぬな…。」
蛇神は不作法をであったと詫びた。
「いや、別に謝る事じゃないよ。
何が蛇神くんの気をひいたのかなと思ってね。」
牛尾は上品な微笑を浮かべ、蛇神に質問した。
「そッうだな。蛇神と話してて別の方向いてたの見るのはッじめてだぜ?」
「同感なのだ。何を見ていたのだ?」
「がああ・・・。」
他の二人も興味深そうに、あとの一人は少し遠慮がちに蛇神に詰め寄る。
相当面白そうだと思ったのか。
蛇神はそんな仲間たちに戸惑ったような表情を見せる。
「あ、いや…。」
「どくのだ。蛇神。」
問答無用と言う言葉そのままに、鹿目は蛇神が眺めていた窓の外を見る。
すると。
「猿野なのだ!」
蛇神の視線の先に居たのは、彼らの後輩 猿野天国。
どうやら見知らぬ男子生徒に告白を受けている様子である。
「あれは…。」
「どこかの不届き者が僕の猿野に告白してるのだ!!」
「なッにぃ?!!ってか、鹿目!!どさくさにまぎれて何か言いやがったな!?」
「が、があああ。(まあまあ、二人とも。)」
「…おい。」
窓際で騒動になりかかったとき、別方向から声がかかる。
「ああ、一宮くん。
悪いけど今取り込み中なんだ。」
「…ああ、聞かなくても分かるけどな…。」
彼らの同級生の一人、一宮だった。
彼は教科書を借りようかとここに足を運んだのだが…。
濃ゆい人間たちがややこしい争いをしているのを見て頭痛をおこしたようだ。
「ところで今蛇神も走ってどこか行ったみてえけど、なんかあったのか?」
「「「「「え?」」」」」
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「いきなりこんな事言って…びっくりするとは思うんだけど…。
オレ、前から君のこと見てたんだ…。」
言われた方、猿野天国は言われたとおり面食らっていた。
目の前の人物には全く覚えはないが、真面目そうで整った顔立ちの少年だった。
衿のバッヂで3年の先輩であることは分かったが、それ以外は全く見も知らない人間だ。
んで、男。
面食らわない方がどうかしている。
確かに自分の恋人は…だけど。
だが、世間一般の基準では男は女に告白するものであると言うのが大部分の常識と言う奴である。
…はずですが?
そんな風にぐるぐると頭の中をまわしていた天国の様子に、目の前の少年は苦笑する。
「混乱してるね。
…仕方ないとは思うんだ。けど…。」
そう言って、少年は一歩前に出る。
「オレは本気だよ。」
「え?」
ふと天国が正気に戻った時。
至近距離に少年の顔があった。
「…!?」
いきなりの相手の行動に天国は咄嗟に反応できず。
相手のされるがまま、抱きしめられそうになった。
その時。
「そこまで。」
低く重々しい声とともに天国の身体が後ろから引かれ、別の身体に抱きしめられる。
「へ、蛇神さん!!」
「蛇神君…。」
天国は天の助けと、嬉しそうな顔をする。
その表情にすこし動揺しつつも、蛇神は天国の身体を腕に抱いたまま。
相手の少年と対峙した。
「今、話中なんだけど?」
以外にも相手の少年は蛇神の出現に落ち着いた様子を見せていた。
「…呆けた相手に迫る事は話とは言わぬ。
それに、この者は我の恋人也。」
「…蛇神さんっ…。」
蛇神の言葉に驚いた天国は、蛇神の顔を見上げ、あげかけた声をつまらせた。
いつの間にか開眼した蛇神の眼差しは見たこともないほど鋭かったのだ。
「そっか…。今は、引いた方がいいかな?」
相手の少年は蛇神の眼差しに少し驚きながらも、今この場で対峙する事の不利に気づいたようだ。
蛇神はウソを言うような人間ではないことを無意識のうちに感じ取ったのだ。
そして、天国は蛇神の恋人であることが真実である事が分かったから。
「じゃ、またね。猿野くん。」
「次はない。二度と猿野の前に姿を現すな。」
踵をかえし去っていく相手に、蛇神は殊更低く怒りを込めた言葉を返す。
そして、相手の少年は苦笑したままその場を去っていった。
少年が去ってから蛇神は天国を抱きしめていた腕を解いた。
天国は蛇神に礼を言う。
「あの、助かりました。蛇神さ…、えっ?」
すると、蛇神は天国の腕を無言で掴み、そのまま強引に引く。
「へ、蛇神さん?!どこへ…。」
「黙ってついて来る也。」
蛇神が先程と同じく低い声のまま、天国を連れて行った。
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着いた先は、部室。
蛇神はおもむろに鍵を開けると、天国を引き入れて自分も入り、そのまま内側から鍵を閉める。
「蛇神さん…?」
鍵を閉め天国に振り向いた蛇神は、先程のまま。
開眼して、鋭い眼をしていた。
天国は蛇神にそんな目で見られることに戸惑いを隠せず。
「あの…何、怒ってるんすか…。」
「…分からないか?」
天国の質問にぼそりとつぶやくと。
蛇神は、強引に天国を抱きしめ。
噛み付くように口付けた。
「ん…んぅ…っ…!」
呼吸するいとまも与えないほどに、蛇神のキスは激しく。
長身で天国に覆いかぶさるよう抱きしめ、深く深く唇を奪った。
天国はすがり付くように蛇神の背にしがみつき。
蛇神の少し長い黒髪を握り締め。
蛇神は天国の後頭部を押さえながらしっかりと片腕で天国の身体を支え抱きしめていた。
数分にも及んだキスが漸く終わった時。
天国は床に座り込んでしまった。
「…何で…キツすぎっすよ…。」
蛇神は座り込んだ天国の前に自分もひざを下ろし。
俯いた天国に言った。
「……そなたが無防備に抱きしめられそうになっているのを
すぐに許せるほど我は修行をつんではおらぬ。」
嫉妬したのだ。
天国が混乱していたせいで動かなかったのはよく分かっている。
なのに、傍から見ていれば相手の愛を受け入れているように見えて。
胸が焼け付くようだった。
「そんな・・・オレ、蛇神さんだけっすよ…。」
天国は紅潮し、うるんだ瞳を蛇神に向けた。
そんな天国を見て、蛇神はもう一度。次は優しくキスし、柔らかく抱きしめた。
「分かっている…我も愛している。
天国…。」
その言葉に、天国は安心したように。
今度は身体の力を抜いて、蛇神の腕の中に身体を預けた。
そこは自分が選んだ場所。
end